
アンテロープキャニオン/Antelope Canyon とは?
アメリカ・ナバホネーション(Navajo Nation)に位置する世界的に有名な
スロットキャニオン(狭い渓谷)。
アリゾナ州のペイジ(Page)の郊外に位置します。
鉄砲水が何千年もかけて削った滑らかな曲線の砂岩。
高く細い砂岩の回廊に入ると、空間は急に静まり、光が刻一刻と形を変えながら壁に反射します。角度によって赤、紫、オレンジへと色が変わり、まるで生きている空間の中にいるような感覚に包まれます。
主なエリアは アッパー(Upper)と ロウワー(Lower)の2つ。
~観光の基本~
【必ず予約が必要】 ナバホ族管理のため、ガイドツアーでのみ入場可。個人で勝手に入ることはできません。
【ピークシーズンは完売必至】 特に昼頃のツアーは早くに売り切れることが多い。
アンテロープキャニオンの歴史
グランドキャニオンが西洋人(スペインの探検家)に公式に発見されたとされるのは1540年ですが、それ以前の太古の昔から存在していたことは述べるまでもありません。 現在「アンテロープキャニオン(Antelope Canyon)」と呼ばれている峡谷も同様に太古の昔から存在していたことは明白ですが、正式な公開や観光地として管理される以前は、この峡谷は主に「先住民の地」として扱われており、詳しい記録が残っていません。
あくまでも「先住民の伝承によれば~」という前提ですが、1931年に、羊の世話をしていた若いナバホ族の少女(伝承名は “Sue Tsosie”)が峡谷を偶然見つけ、「美しい岩と光の渓谷」を仲間に語った、という伝承があります。これが「アンテロープキャニオン」という名で知られるようになったという説が有力です。
ナバホ語で 「Tsé bighánílíní(岩を水が流れ抜けるところ)」 という意味を持ち、水が岩を削った場所だという認識が古くからあったことを示しています。このスロットキャニオンは、水や精霊と結びついた場所とされ、神聖な儀式や祈りの場として使われてきました。
観光地としての変遷
本格的に観光地として認知され始めたのは1980年代〜1990年代以降なので、アメリカの観光地としては最近とも言えます。90年代頃は観光客も多くなく、ロウワー・アンテロープキャニオンなどはほぼ自由に出入り可能で、ナバホ族の小さな案内所に数ドル払うだけ、という時代でした。
ガイドも義務ではなく、個人で勝手に歩いて見学できたほどです。
当時のペイジ(Page, AZ)自体がまだ観光地として今ほど成熟しておらず、アンテロープキャニオンは「知る人ぞ知る秘密の場所」でした。
大きな転換点は、1997年の洪水事故です。突然のフラッシュフラッド(鉄砲水)により複数の観光客が亡くなる痛ましい事故が起こりました。この事故が観光のルールを大幅に見直すきっかけとなります。
これ以降:
- 個人での入場は禁止
- ナバホ族のガイド同行が必須に変更
- ナバホ族による管理が厳格化
- 階段・梯子の設置と安全基準の強化
こうして 「自由に入れる穴場」ではなくなり、「管理された観光地」へ変化していきます。
2000年代:急激な人気上昇
インターネット普及とデジタルカメラの流行で、アンテロープの写真が世界的に拡散して知名度が高まります。
特に有名になったのが以下:
- 2000年代中盤:旅行サイトや写真SNSで“光のビーム”写真がバズる
- ピーター・リック(Peter Lik) の写真 “Phantom” が、650万ドルで落札(アンテロープで撮影)
→ これがさらに世界的な知名度を爆発させた
Phantom(ファントム)と名付けられたアンテロープキャニオンで撮影された写真は意外にもモノクロです。
2014年当時のレートでは650万ドルは約6億5千万円でしたが、現在の為替相場なら約10億円になります。
現在:世界的人気の観光地
今やアンテロープキャニオンは世界中から観光客が訪れる一大有名スポットとなりました。
増え続ける観光客対策としてナバホ族は人数制限・予約制・料金値上げを段階的に進めました。
昔は無料で誰でも自由に立ち入ることができた「砂岩の裂け目」が、現在は1人あたり50~150ドルという高額ツアーとなっています。
ただし、このことはナバホ族の貴重な収入源としての意味だけではなく、取り締まり強化・システム維持・安全対策費用(ガイド・訓練・避難設備など)に多額のコストがかかっていることや、人数制限によるプレミア化もその要因となっています。
アンテロープキャニオンの成り立ち
アンテロープキャニオンは地質学的にはスロットキャニオン(slot canyon)の1つです。
英語の “slot” は「細長い狭い裂け目/切れ込み」を意味し、
“slot canyon” は「岩の裂け目が時間の経過と浸食で深くなり峡谷になったもの」というニュアンスがあります。
スロットキャニオン(slot canyon)自体は世界中に数多く存在しますが、アメリカ南西部(アリゾナ、ユタ)に最も多く存在します。その中で最も有名なのがアンテロープキャニオン(Antelope Canyon)です。
ちなみに、ザイオン国立公園にあるザ・ナローズ(ナローズ峡谷)もスロットキャニオンの1つです。
どのようにして形成されたのか
この不思議で美しい形は、とてつもなく長い年月をかけて自然の力だけで作られました。
アンテロープキャニオンの岩壁は、主にナバホ砂岩(Navajo Sandstone)でできています。
1億8000万年ほど前から存在するこの砂岩層は、風によって運ばれた砂が堆積し、
1500万年もの時間をかけて形成されました。
その厚さは、場所によっては600メートル以上にも達し、色合いは地層に含まれる酸化鉄の影響で淡いピンク色から鮮やかなオレンジ色まで変化に富んでいます。
1 もともとは平らな砂漠だった
今ある場所は、昔は砂漠に近い乾いた土地でした。そこに風が砂を運び、砂が積もって層を作り、時間がたつにつれて固まって「砂岩」という岩になりました。
2 豪雨による洪水が砂岩を削る
この地域では、普段は雨が少ないですが、夏になると 短時間に激しい雨(スコール) が降ることがあります。雨は遠く離れた山の上に降ることも多く、その水が一気に流れ込むと、鉄砲水(フラッシュフラッド) となって谷に押し寄せます。
この激しい水の流れは、細かい砂の粒を大量に巻き込み、岩の壁に高速でぶつかりながら進むため、ヤスリのように岩を削って形を変えていきます。
3 少しずつ深く、そして細く削られていった
洪水が何度も何度も繰り返されることで、岩はゆっくり削られ、谷は 深く細く 伸びていきました。
- 上部の岩は広く削られる
- 下に向かうほど水の力が集中して狭くなる
その結果、底の部分がとても狭く、上が広い形の スロット(細長い隙間) が形成されます。 この激しい水の流れは、細かい砂の粒を大量に巻き込み、岩の壁に高速でぶつかりながら進むため、ヤスリのように岩を削って形を変えていきます。
4 数百万年~2千万年の時間が作り上げた芸術
この形になるまでにかかった時間は、なんと 数百万年~2,000万年 といわれています。
人の一生では想像できないほど長い時間、自然が少しずつ削り続けたのです。
5 光が差し込んで神秘的な景色が生まれる
谷の上部は狭く、直接光が入り込むことが少ないため、太陽の位置がぴったり
合ったときだけ、細い光が地面まで届きます。
これが有名な 「光のビーム」 です。
光が砂粒に当たって輝くことで、幻想的な雰囲気が生まれます。
壁面の色(赤・オレンジ・ピンクなど)や層の模様は、鉄分やその他鉱物の酸化や堆積によるもので、それが風景の美しさを一層引き立てています。
アッパー・アンテロープキャニオン(Upper)
通路が広く、歩きやすい。 地面は平坦なので足腰が弱い人も楽に観光ができる。
非常に混雑するので人が写り込まないように写真を撮ることが難しい。
季節と時間帯によっては光のビーム(天から差し込む光柱)が見られる。
ビームが見られる季節は3月下旬~10月初旬あたり。
最も期待できる時期は5月~9月頃。
時間帯はお昼(正午)前後。 ただし天候が悪ければ見えません。
また、お昼前後の時間帯は何ヶ月も前に完売することもあります。
ロウワー・アンテロープキャニオン(Lower)
アッパーより狭く冒険的、写真映えも抜群。
アッパー同様、条件によって光のビーム(天から差し込む光柱)が見られる。
地形がよりアドベンチャー向きなのが特徴。狭く曲がりくねった通路、V字状に深く落ち込んだ地形が多いため、洞窟探検のような気分を味わうことができる。
アッパーのような単に「見るだけ」の観光ではなく、身体を使った探検感覚を強く感じさせるため、冒険好きな観光客には非常に人気があります。
アッパーは1度のツアーで内部に入る人数が多くなりがちですが、ロウワーは物理的に狭いため
他人が写り込まない写真を撮りやすく、自分のペースで進みやすいという利点がある。
壁の曲線や色の重なり(ミルフィーユ構造のような層)が被写体として魅力的で非常に写真映えすると好評。
歩く距離が長く、梯子を上り下りする必要があるので足腰が弱い人には不向き。







